PTCL Forum ~末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)の病態と治療~

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再発又は難治性末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)の予後は依然厳しく、新たな治療ターゲットを見つけるため、更なる病態理解とトランスレーショナルリサーチによる治療の進歩が求められている。PTCL Forum(主催:Meiji Seikaファルマ株式会社)では「末梢性T細胞リンパ腫の病態と治療」をテーマに、永井宏和先生、松村到先生の司会の下、坂田麻実子先生からはT/NK細胞リンパ腫におけるゲノム異常の発展の歴史について、伊豆津宏二先生からは再発又は難治性PTCLの治療について、2021年に承認されたツシジノスタットの臨床試験成績を交え、ご講演いただいた。

座長

永井 宏和 先生  独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センター長
松村 到 先生   近畿大学医学部 内科学教室 血液・膠原病内科部門 主任教授

演者

坂田 麻実子 先生  筑波大学 医学医療系 血液内科 教授
伊豆津 宏二 先生  国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 血液腫瘍科 科長

末梢性T細胞リンパ腫の病態理解の進歩を広く俯瞰する

坂田 麻実子 先生 (筑波大学 医学医療系 血液内科 教授)

 T/NK細胞リンパ腫はWHO分類2017年度版で約30種類に分類される。2020年度の日本血液学会疾患登録データによると、本邦において登録されたT/NK細胞リンパ腫2,280例のうち、多い順に成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)675例、末梢性T細胞リンパ腫・非特定型(PTCL,NOS)534例、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)372例、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型(ENKTL)175例、未分化大細胞リンパ腫(ALCL)・ALK陰性型101例、ALCL・ALK陽性型70例であった1)。WHO分類2017年度版の変更点として、PTCL,NOSからT濾胞ヘルパー(TFH)細胞に類似した、いわゆるAITLに近いPTCL,NOS(nPTCL with TFH phenotype;以後PTCL-TFH)が暫定的に分類された。PTCL,NOSのうちおよそ1/3がPTCL-TFHとして再分類されると考えられ、T細胞リンパ腫の病理組織学的分類は過渡期にあるといえる。2014年にIqbalらが発表した病理診断と遺伝子発現解析による分子学的特徴を基にした分類の比較において、ALCL・ALK陽性型では100%の一致率だったのに対して、AITL、PTCL,NOSと病理診断されている症例では分子学的特徴を基にした分類とは一致しないケースがあると報告された2)。この時点ではPTCL-TFHの概念が取り入れられていなかったことも影響していると考えられるが、病理診断においてバイオマーカーがいかに大事かを示唆した研究といえる。研究手法も進歩を遂げており、クリニカルシーケンスの臨床実装が始まろうとしている。基礎と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチとしてのゲノム解析の位置づけは年々大きくなっている。
 ここからはT/NK細胞リンパ腫におけるゲノム異常の発展の歴史について述べる。2012年に、大顆粒リンパ球性白血病(LGL)においてJAK-STAT経路のSTAT3に変異が集積していることが報告され3)、T/NK細胞リンパ腫における疾患特異的変異同定の先駆けとなった。その後、STAT3/STAT5B変異は様々なT/NK細胞リンパ腫で同定されたことから4)、疾患特異的な変異というよりも広くがんの病態を決めるようなシグナル異常であるということが次第に認識されるようになった。腸管症関連T細胞リンパ腫(EATL)においては、JAK-STATに加えてG protein coupled receptor経路のGNAI2に変異の頻度が高いことが報告された5)。ENKTLにおいては、JAK3に変異が多いことが報告され6)、その後エクソーム解析によりRNAヘリケースをコードするDDX3Xの様々な部位にも遺伝子変異があることが明らかとなった7)。ENKTLはこの他TP53変異をはじめとする様々な変異が認められ、この報告では全生存割合はDDX3X変異/TP53変異で層別化されることも同時に示された7)。日本では頻度が少ない皮膚のリンパ腫である、セザリー症候群および皮膚原発リンパ腫(CTCL)では、ゲノム異常に関する論文が数多く報告されている。コピー数多型による欠失あるいは増幅に加えて遺伝子変異が組み合わされて起こるヘテロな疾患である。PTCL,NOSに関しては、綿谷らがゲノム異常解析を行い、グループ1(TFH細胞に類似する特徴を有する群)、グループ2(TP53/CDKN2Aの異常を有する群)、グループ3(その他の群)に分類し予後を調べたところ、グループ1、2はグループ3に比べ予後不良であったと報告した(図1)8)。Iqbalらからは、遺伝子発現プロファイルの結果によりヘルパーT細胞タイプ1(Th1)の特徴を持つ群をPTCLTBX21、ヘルパーT細胞タイプ2(Th2)の特徴を持つ群をPTCL-GATA3と分類すると、PTCL-GATA3群で予後が不良であり2)、多数のゲノム異常がみられること9)、免疫染色でも分類可能であることが示された10)。我々のグループではVAV1遺伝子に着目していたが、VAV1異常とTP53異常がPTCL-GATA3でしばしば共在することから、VAV1/TP53変異共在マウスを作製したところ、VAV1/TP53変異共在マウスはTP53変異のみのマウスよりも生存期間(OS)が短いこと、T細胞リンパ芽球性リンパ腫だけでなく成熟リンパ系腫瘍を発症することを示した(図2a,b11)。加えて、その成熟リンパ系腫瘍細胞はTh2細胞を特徴づける遺伝子マーカーが高発現しておりPTCLの亜型(PTCL-GATA3)を模倣していること、PTCL-GATA3と同様にCcr4、Gata3の発現やMyc領域の増幅がみられ(図2c,d)、Myc経路を阻害することが期待されるJQ1を投与することによってマウスの生存期間が延長することを確認した11)。杉尾らからは微小環境中の免疫細胞に着目し、PTCL,NOSがB細胞、樹状細胞などの浸潤度により分類できること、B細胞シグネチャーのないnonBcellタイプと樹状細胞シグネチャーのないnonDCcellタイプでは予後が悪いことが報告された12)。皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫(SPTCL)では、生殖系列変異として免疫調節分子であるTIM3をコードするHAVCR2変異が報告され13)、アジア人ではHAVCR2変異のうちY82C変異が多いことが示された14)。また、HAVCR2変異は血球貪食症候群の合併と関連することが報告されている15)。ALCL・ALK陽性型においては、染色体の相互転座によりALK遺伝子と様々なパートナー遺伝子が融合遺伝子を形成し、中でもNPM-ALK融合遺伝子が知られている。ALCL・ALK陰性型ではJAK-STAT経路の変異やDUSP22転座やTP63転座が報告され予後に影響することが示されている16)。AITLについては、我々がTET2とRHOAの遺伝子変異の共在について報告した17)RHOA変異があるAITL、TFHタイプのリンパ腫ではHDAC阻害剤の有効性を示唆する報告がなされている18)
 私見であるが、T/NK細胞リンパ腫において、AITLにおけるRHOA変異およびSPTCLにおけるHAVCR2変異は特に診断に有用と考えられる。ゲノム異常は病態解明の手掛かりとして有用であるが、真の病態理解には追究すべきことは多数あり、治療への応用に向けたトランスレーショナルリサーチには一層の努力と進歩が必要である。

引用文献

  1. 一般社団法人日本血液学会:2020年度血液疾患症例登録
  2. Iqbal J, et al.: Blood. 2014; 123(19): 2915-2923.
  3. Koskela HL, et al.: N Engl J Med. 2012; 366(20): 1905-1913.
  4. Küçük C, et al.: Nat Commun. 2015; 6: 6025.
  5. Nairismägi ML, et al.: Leukemia. 2016; 30(6): 1311-1319.
  6. Koo GC, et al.: Cancer Discov. 2012; 2(7): 591-597.
  7. Jiang L, et al.: Nat Genet. 2015; 47(9): 1061-1066.
  8. Watatani Y, et al.: Leukemia. 2019; 33(12): 2867-2883.
  9. Heavican TB, et al.: Blood. 2019; 133(15): 1664-1676.
  10. Amador C, et al.: Blood. 2019; 134(24): 2159-2170.
  11. Fukumoto K, et al.: Blood. 2020; 136(26): 3018-3032.
  12. Sugio T, et al.: Blood Adv. 2018; 2(17): 2242-2252.
  13. Gayden T, et al.: Nat Genet. 2018; 50(12): 1650-1657.
  14. Polprasert C, et al.: Blood Adv. 2019; 3(4): 588-595.
  15. Sonigo G, et al.: Blood. 2020; 135(13): 1058-1061.
  16. Parrilla Castellar ER, et al.: Blood. 2014; 124(9): 1473-1480.
  17. Sakata-Yanagimoto M, et al.: Nat Genet. 2014; 46(2): 171-175.
  18. Ghione P, et al.: Blood Adv. 2020; 4(19): 4640-4647.

再発又は難治性PTCL治療の新しい選択肢

伊豆津 宏二 先生 (国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科 科長)

 悪性リンパ腫の中でPTCLが占める割合は少ない。フランスの血液病理医のネットワーク、Lymphopath Networkのデータでは悪性リンパ腫におけるT/NK細胞リンパ腫の割合は約6%であり、その内訳は多い順にAITL36%、PTCL-NOS27%、ALK陽性ALCL9%、ALK陰性ALCL8%であり、これらの節性T細胞リンパ腫が全体の3/4を占めていた1)。国内ではATLの発症率が高いため、海外よりもT細胞リンパ腫の占める割合がやや多くなっており、武藤らの報告では、T/NK細胞リンパ腫の割合は18%であり、そのうちATL7%、AITL5%、PTCL-NOS3%、ALCL1%と、ATLを除くと節性T細胞リンパ腫の内訳はフランスと同様の結果であった2)。米国PTCL患者を対象とした前向きコホート研究(COMPLETE)では、PTCLの発症年齢中央値は63歳と高齢の患者が多く、76.5%の患者がステージⅢ‐Ⅳの進行期で発見されることが示された3)。この研究ではファーストラインの治療としては、CHOP療法や、CHOP療法にエトポシドを併用したCHOEPやdose-adjusted EPOCHなどが用いられていた。病型によって予後は異なり、ALCLは予後が良好であったが(p=0.01,log-rank検定)、それ以外の病型であるAITLとPTCL-NOSは同様のサバイバルであったことが示されている3)。ファーストラインの治療で一度CRとなった後に再発した患者やCRにならずに病勢進行してしまった再発又は難治性のPTCL患者においては、初発と同様にALK陽性ALCL患者の予後は良好であるが、その他の病型の予後は厳しい。再発又は難治性PTCLに対して、造血幹細胞移植を実施した患者群が未実施の患者群と比べて予後が良好であったとの報告4)から、移植が可能な患者では、白金製剤かシタラビン大量療法を含む多剤併用化学療法か分子標的治療を寛解導入療法として行い、奏効が得られれば自家移植又は同種移植を行うことが勧められる。一方で、移植できないもしくは移植を行ったが再発した場合は、多剤併用化学療法などの毒性の強いレジメンよりも、分子標的治療薬を用い、それぞれの治療が奏効した際は継続するといった治療方針が取られることが多い。
 再発又は難治性PTCLに用いられる分子標的治療薬として、様々な薬剤が開発されている。具体的には、抗CD30モノクローナル抗体であるブレンツキシマブベドチン、抗CCR4モノクローナル抗体であるモガムリズマブ、ALK阻害剤であるアレクチニブ、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤であるプララトレキサート、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ阻害剤であるフォロデシン、ジフテリア毒素とIL-2の融合タンパクであるデニロイキンジフチトクス、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤のロミデプシンや後に紹介するツシジノスタットなどがある。これらは、フォロデシンやツシジノスタットを除き、海外でのピボタルスタディと、そのブリッジングとして行われた国内臨床試験により承認された薬剤である。モガムリズマブやデニロイキンジフチトクスなどは投与回数が決められているが、それ以外の薬剤は奏効している限り投与を継続するのが一般的である。
 ツシジノスタットは2021年11月に「再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫」に適応を取得し、再発又は難治性PTCLに対する治療選択肢に加わった。ツシジノスタットは、経口で用いられるHDAC阻害剤であり、主にクラスⅠのHDACを阻害する。薬剤としては2014年に中国で再発又は難治性PTCLに対して「chidamide」として承認されており、日本では、先行して2021年6月に再発又は難治性ATLの治療薬として承認された。当薬剤は日本人非ホジキンリンパ腫患者を対象に行われた国内第Ⅰ相試験の結果から、中国での承認用量(30mgを1週間に2回投与)よりも多い、40mgを1週間に2回投与と設定された5)。その後、当用法及び用量により再発又は難治性PTCLを有する日本人又は韓国人患者55例を対象としたツシジノスタットの有効性及び安全性を検討する国際共同第Ⅱb相試験(HBI-8000-203試験)が行われた(図16)。対象患者の年齢中央値は71歳、55例中39例が日本人であり、PS0/1が97%を占めた。病型は67%がPTCL-NOS、18%がAITL、前治療数中央値は2ライン、前治療からの経過日数中央値は97日であった(表1)。主要評価項目である奏効率は46%(21/46例,95%CI:31-61)、完全奏効(CR)11%(5/46例)、部分奏効(PR)35%(16/46例)、安定(SD)26%(12/46例)、進行(PD)28%(13/46例)であった(表2)。病型別の奏効率は、PTCL-NOSで35%(12/34例)、患者数は少ないもののAITLでは7/8例であった(表3)。無増悪生存期間(PFS)中央値は5.6ヵ月、奏効期間(DOR)中央値は11.5ヵ月、生存期間(OS)中央値は22.8ヵ月であった(図2)。表4は安全性の結果である。主な有害事象は血小板減少症84%(46/55例)、好中球減少症56%(31/55例)であり、Grade3以上の発現率はそれぞれ51%(28/55例)、36%(20/55例)であった。血小板輸血は9例、G-CSF投与は17例で行われた。本試験では血液毒性がみられた際の休薬や減量基準が設けられており、67.3%(37/55例)で休薬が行われ、うち40%以上が1-2サイクル目の休薬であった。また、47.3%(26/55例)で減量が行われ、うち36.4%で一段階の減量が行われた。減量タイミングの中央値は32.5日であった。
 ツシジノスタットは40mg(10mg錠4錠)を1週間に2回、食後に経口投与するHDAC阻害剤であり、病勢進行又は許容できない副作用発現まで投与を継続する。積極的にHDAC阻害剤を投与すべきポピュレーションはまだ分かっていないものの、ツシジノスタットは経口薬であるため、通院でき、誤飲せずに服用できる患者が主な投与対象と考える。

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引用文献

  1. Laurent C, et al.: J Clin Oncol. 2017; 35(18): 2008-2017.
  2. Muto R, et al.: Cancer Med. 2018; 7(11): 5843-5858.
  3. Carson KR, et al.: Cancer. 2017; 123(7): 1174-1183.
  4. Bellei M, et al.: Haematologica. 2018; 103(7): 1191-1197.
  5. 社内資料:国内第Ⅰ相試験(HBI-8000-201試験)(承認時評価資料)
  6. 社内資料:国際共同第Ⅱb相試験(HBI-8000-203試験)(承認時評価資料)


重篤な有害事象:発熱性好中球減少症2例(3.6%)、再生不良性貧血、不安定狭心症、疲労、発熱、ニューモシスチス・イロベチイ肺炎、咽頭炎、肺炎、C-反応性蛋白増加、低ナトリウム血症、PTCL-NOS、急性腎障害、上気道の炎症、肺臓炎、間質性肺疾患、末梢動脈閉塞性疾患各1例(1.8%)。14例中10例で治験薬と関連性のある有害事象が認められた。
投与中止となった有害事象:好中球減少症※15例(9.1%)、血小板減少症※24例(7.3%)、リンパ球減少症※3、γ-GTP増加、肺臓炎各2例(3.6%)、白血球減少症※4、ニューモシスチス・イロベチイ肺炎、肺炎、脳性ナトリウム利尿ペプチド増加、血中ALP増加、PTCLNOS、呼吸困難、間質性肺疾患各1例(1.8%)。18例中17例で治験薬と関連性のある有害事象が認められた。
死亡に至った有害事象:肺炎1例(1.8%)。死因は被験者の原疾患を考慮して治験薬との関連性はないと判断された。
※1:好中球数減少及び顆粒球減少症を含む ※2:血小板数減少を含む ※3:リンパ球数減少を含む ※4:白血球数減少を含む

 

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