ATL Forum ~成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の病態と治療~
第1回|基礎編 | 先端ゲノム技術を用いたATL分子病態の解明
開催日:2021年9月8日(水)
開催場所:全国オンラインセミナー
座長:
宮崎大学医学部内科学講座
血液・糖尿病・内分泌内科学分野 教授
下田 和哉 先生
演者:
慶應義塾大学医学部内科学(血液)教授
国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野 分野長
片岡 圭亮 先生
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は、HTLV-1感染が原因となって生じます。HTLV-1感染は通常、乳児期に母乳を介して起こり、その後数十年経過してからATLを発症します。しかし、実際ATLを発症するのはキャリアーの約5%とされています1)。そのため、発症までの期間における体細胞異常の蓄積がATL発症に重要である可能性が考えられています。私たちの研究グループでは、この点を明らかにするために、様々なゲノム技術を用いた遺伝子解析を行ってきました。そこで今回は、その中で見つかった3つの重要なポイントとして、T細胞の受容体シグナル伝達、免疫、エピゲノムの異常をご紹介します。
T細胞の受容体シグナル伝達の異常
ATLでは、特にTCR/NF-κB経路に属する遺伝子に多く異常が見られました2)。これらの遺伝子、ひいてはTCR/NF-κB経路自体がATLにおいて重要ということが示唆されます。それ以外にも、たとえばCCR4やCCR7を含むケモカイン受容体の遺伝子にも高頻度に異常が認められていますが、実際に抗CCR4抗体はATLの治療に用いられています。また、ほかのシグナル伝達経路やT細胞で重要な転写制御因子、免疫監視やエピジェネティック因子、TP53といったがん抑制遺伝子に関連する遺伝子に異常が集積していたことが分かります。
こうした遺伝子異常は予後とも関連します。予後に重要とされている臨床因子と遺伝子異常を変数として単変量解析を行い、予後との関連を解析したところ、Aggressive ATLではJCOG-PIや年齢に加えて、PRKCB変異やPD-L1の増幅といった遺伝子異常が関連因子として抽出されました。つまり、これらの因子によってAggressiveサブタイプを層別化できることが分かりました。

また、Indolent ATLでは、IRF4変異やPD-L1の増幅、さらにCDKN2Aの欠失が予後不良と関連していることが明らかになりました。こうした結果から、ATLでは臨床因子だけでなく、遺伝子異常に予後予測効果があることが示唆されています。

また、ATLで多く見られるTCR/NF-κB経路の遺伝子異常の特徴として、機能獲得型の異常が主体である点が挙げられます。たとえば、PLCG1、PRKCB、CARD11、VAV1などで機能獲得型の変異が集積したことが認められています2)。さらに、CD28の融合遺伝子などによって、この経路の活性化が生じると考えられます。そのため、TCR/NF-κB経路あるいはその一部はATLの治療標的として有用な候補になりうると考えています。
免疫の異常
続いて、免疫についてです。私たちの研究グループが免疫に注目するきっかけとなったのは、PD-L1の構造異常の発見でした。全ゲノム解析では、重複や逆位、転座、欠失といった構造異常の切断点を塩基レベルで解析することができます。ATLの全ゲノム解析で最も高頻度であった切断点は、免疫チェックポイント分子であるPD-L1をコードする遺伝子でした。特にほとんどが遺伝子の後半に存在することが分かり、私たちは発現制御に関与するとされる3’-非翻訳領域(UTR)に注目しました。RNAシーケンシングでPD-L1の発現量を解析すると、全ゲノム解析でPD-L1の構造異常がある症例では発現量の増加が見られました。つまり、この異常はPD-L1の恒常的活性化を起こす異常であるということが分かります。

さらに、この単一細胞解析ではもうひとつ興味深いことが分かりました。PD-L1の構造異常があると腫瘍細胞でPD-L1の発現が増加することは分かっていますが、非腫瘍細胞でも発現の増加が見られたのです。それを指すのがこちらのデータです。非腫瘍細胞であるB細胞や骨髄系細胞で、PD-L1をコードするmRNAの増加は当然見られていないのですが、一方タンパクを解析すると、B細胞と骨髄系細胞の両方で発現量の増加が見られました。このことは、腫瘍細胞でPD-L1が過剰発現していると、その周囲の細胞ではmRNAと独立にPD-L1の発現が増加することを示唆しています。そこで私たちが考えたのは、PD-L1が腫瘍細胞から周囲の細胞に移っているのではないか、ということです。

これを検証するために、GFPを付けたPD-L1の発現細胞と末梢血単核球を共培養する検討を行いました。その結果、予想のとおり、末梢血単核球へPD-L1-GFPが移動することが示されました。さらに、移ったPD-L1-GFPはT細胞抑止能を保持していることが分かりました。
この結果は、腫瘍細胞で遺伝子異常によって過剰発現したPD-L1が、周囲の細胞に移ってT細胞を抑制できるということを示してます。遺伝子異常そのものは腫瘍細胞でのみ起きていますが、それにもかかわらず、周囲細胞を含めた微小環境のリモデリングが生じることを示しています。

エピゲノムの異常
最後にエピゲノムについてです。冒頭でご紹介した網羅的遺伝子解析では、DNAにおけるCpG islandのメチル化を解析し、メチル化が亢進した症例の存在を確認しました2)。そのようなCIMP(CpG island methylator phenotype)は固形癌で注目されていますが、ATLにもCIMPがあることが認められています。さらにCIMPがある症例はAggressiveなものが多く、予後不良であることも分かりました。
CpG islandのメチル化は、基本的に遺伝子発現を抑制する方向に働くことが知られてます。ATLでは、DNAメチル化が亢進して発現が低下する遺伝子が多いことが確認されています。そして、そうした遺伝子には、MHCクラスⅠ遺伝子、そしてC2H2 zinc finger遺伝子が含まれていました。
C2H2 zinc fingerは、ヒト最大の転写因子ファミリーで、内在性・外在性レトロエレメントの抑制に関与することが知られています3,4)。HTLV-1も外在性レトロエレメントのひとつですが、C2H2 zinc fingerに含まれるZFP809を発現させた細胞での検討ではZFP809によるHLTV-1の抑制が報告されています。そのためATLでは、C2H2 zinc finger遺伝子が抑制されることで、HTLV-1の活性を高めることができる状況にある可能性が考えられます。
1)Cook L, et al. Curr Opin Virol. 2017;26:125-131.
2)Kataoka K, et al. Nat Genet. 2015;47(11):1304-15.
3)Najafabadi HS, et al. Nat Biotechnol. 2015;33(5):555-62.
4)Wolf D, et al. Nature. 2009;458(7242):1201-4.
こうした遺伝子解析等で明らかにされた病態から、エピゲノムはATL治療における有力なターゲットと考えられます。
HDAC阻害剤は、ヒストンの脱アセチル化を阻害し、細胞周期停止やアポトーシス誘導を生じることで腫瘍増殖を抑制すると推測されています。また、HDAC阻害剤であるハイヤスタ®(ツシジノスタット)は、ATL細胞のアポトーシスを誘導することが示されています。遺伝子解析で明らかになった病態を踏まえても、ATLにおける有効性が期待できると考えています。
