ツシジノスタットは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)であるHDAC1、HDAC2及びHDAC3(クラスⅠ)、並びにHDAC10(クラスⅡb)の酵素活性を阻害する22)。HDAC活性阻害によりヒストン等の脱アセチル化が阻害され、細胞周期停止及びアポトーシス誘導が生じることにより、腫瘍増殖が抑制されると推測されている。しかし、詳細な作用機序は解明されていない。
ツシジノスタットは、in vitroにおいて、ATL由来初代細胞に対して、増殖抑制作用を示した23)。
■ツシジノスタットの作用機序

固形がん又はリンパ腫を有する中国人患者にツシジノスタット25mg、32.5mg又は50mgを単回経口投与したときの末梢血単核細胞のH-3アセチル化に対する作用を検討した。アセチル化誘導作用は25mg、32.5mgでは48時間、50mgでは24時間でそれぞれ最大に達した。
■ツシジノスタット単回経口投与後の末梢血単核細胞のH-3アセチル化に対する作用

1)HDAC酵素阻害(in vitro)22)
HDACアイソタイプ酵素阻害に対するツシジノスタットの選択性及び効力を検討したところ、ツシジノスタットはクラスⅠに属するHDAC1、HDAC2及びHDAC3、並びに、クラスⅡbに属するHDAC10を低濃度で阻害することが示され、その50%阻害濃度(IC50)は67~160nMであった。
■ツシジノスタットのHDAC酵素阻害(in vitro)
| HDAC酵素 | クラスⅠ | クラスⅡa | クラスⅡb | クラスⅣ | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 8 | 4 | 5 | 7 | 9 | 6 | 10 | 11 | |
| IC50(μM) | 0.095 | 0.160 | 0.067 | 0.733 | >30 | >30 | >30 | >30 | >30 | 0.078 | 0.432 |
Adapted with kind permission from Springer-Verlag: Cancer Chemother Pharmacol. 2012 Apr;69(4):901-9, Ning Z-Q, et al.
2)H-3アセチル化に対する作用(in vitro、ex vivo)22)
ヒト子宮頸部腺がんHeLa細胞及びヒト末梢血単核細胞を用いて、ツシジノスタットによるH-3アセチル化について検討したところ、いずれの細胞においても、ツシジノスタットによるアセチル化への誘導が示された(a、b)。
また、H-3アセチル化は、処理後0.5~1時間の時点で認められ、24~72時間で最大に達した(c)。
■ヒトがん細胞及びヒト末梢血単核細胞におけるツシジノスタットのH-3アセチル化誘導(in vitro、ex vivo)

3)がん細胞増殖抑制に対する作用(in vitro)22)
18種のヒト腫瘍由来細胞株を用いて、ツシジノスタットによる細胞増殖抑制に対する作用について検討した(n≧3)。
ツシジノスタットの50%増殖阻害濃度(GI50)は、卵巣がん、神経芽細胞腫及び胃がん由来細胞株を除く腫瘍細胞で低値を示した(GI50±標準誤差:急性T細胞白血病由来Jurkatで6.3±0.9、前骨髄球性白血病由来HL-60で0.4±0.1、バーキットリンパ腫由来Rajiで4.0±0.9、肝がん由来SMMC、HepG2でそれぞれ16±3.2、4.0±1.5)。
一方、ヒト胎児腎臓由来(CCC-HEK)及び肝臓由来(CCC-HEL)の正常細胞に対しての毒性は低く(GI50:ともに100超)、正常細胞とがん細胞では、ツシジノスタットに対する細胞毒性反応性は異なることが示唆された。
4)<参考情報>ナチュラルキラー細胞を介した細胞障害性(ex vivo)22)
健常ドナーからの末梢血単核細胞を用いて、免疫系を介したツシジノスタットの抗腫瘍効果の潜在能力を検討した。ツシジノスタットによるナチュラルキラー(NK)細胞を介した細胞傷害性評価での標的細胞であるK562細胞の溶解作用は有意に高まり(a)、最大の標的細胞溶解活性はツシジノスタット100nMの添加時に認められ(b)、この濃度では48時間が最適培養時間であった(c)。K562細胞(標的細胞)のみにツシジノスタットを添加して培養したとき、ツシジノスタットを添加しなかった末梢血単核細胞(エフェクター細胞)の共存下で細胞溶解性は促進されなかったが、標的細胞及びエフェクター細胞の双方にツシジノスタットを添加したときには、エフェクター細胞のみに添加した場合と比較して細胞溶解性は有意に高まった(d)。
■ヒト骨髄性白血病由来K562細胞の免疫細胞を介した細胞溶解作用に対するツシジノスタットによる促進(ex vivo)

Adapted with kind permission from Springer-Verlag: Cancer Chemother Pharmacol. 2012 Apr;69(4):901-9, Ning Z-Q, et al.
免疫細胞を介した細胞溶解作用に関与することが知られているタンパク質パネルの発現レベルをフローサイトメトリーを用いて解析した。健常ドナー2例からの末梢血単核細胞にツシジノスタット100nMを添加して48時間後に、NK細胞の活性化に関与する受容体タンパク質であるCD16(低親和性免疫グロブリンG受容体)及びナチュラルキラーグループ2D(NKG2D)並びに細胞傷害性酵素であるグランザイムA(GZMA)の発現増加が認められた。
5)抗腫瘍活性(in vitro、ex vivo)23)
①細胞生存能力の抑制(in vitro)23)
7種の初代ATL由来細胞株(KOB、LMY1、LMY2、LMWT5、KK1、SO4及びST1)、及びHDAC阻害剤が奏効することが知られているヒト急性T細胞白血病由来Jurkat株を用いて、ATL由来細胞株におけるツシジノスタットの活性を評価したところ、すべての細胞株で細胞の生存能力の低下が示された。
また、Jurkatは非ATL由来細胞であること、Jurkat及びST1ではIL-2が添加されていないこと、KOB、LMY1、LMY2及びST1は野生型がん抑制タンパク質p53を保持している細胞株であることなどから、HTLV-1感染、IL-2依存性及びp53遺伝子発現の有無はツシジノスタットへの反応に影響を及ぼさないことが示唆された。
■初代ATL由来細胞株におけるツシジノスタットの細胞生存能力の抑制(in vitro)

②細胞生存能力の抑制(ex vivo)23)
ATL患者10例から採取した11種の初代ATL細胞のうち、再発2例(ATL1及びATL10)、及び予後不良因子を有する慢性型2例(ATL7及びATL8)を含む6種の初代ATL細胞を用いて、ATL細胞におけるツシジノスタットの活性を検討したところ、すべての細胞において用量依存的な生存能力の低下が示された。
■初代ATL細胞におけるツシジノスタットの細胞生存能力の抑制(ex vivo)

③アポトーシスの誘導(in vitro)23)
7種の初代ATL由来細胞株(KOB、LMY1、LMY2、LMWT5、KK1、SO4及びST1)、及びヒト急性T細胞白血病由来Jurkat株における、ツシジノスタットによるアポトーシスの誘導について、4つのアッセイを用いて評価した。
その結果、(a)アネキシンV結合、(b)ミトコンドリア膜電位低下、(c)カスパーゼ-3活性化のいずれにおいても、KOB、LMY1、LMY2、LMWT5及びJurkatで、ツシジノスタットによるアポトーシスの誘導が示された。
また、(d)細胞周期においては、KK1、SO4及びST1で、ツシジノスタットによるG1期での細胞周期停止の誘導が認められた。
■初代ATL由来細胞株におけるツシジノスタットによるアポトーシス誘導(in vitro)

④アポトーシスの誘導(ex vivo)23)
ATL患者10例から採取した11種の初代ATL細胞のうち、再発2例(ATL1及びATL10)、及び予後不良因子を有する慢性型2例(ATL7及びATL8)を含む6種の初代ATL細胞における、ツシジノスタットによるアポトーシスの誘導について、アネキシンV/ヨウ化プロピジウムアッセイを用いて評価した。
すべてのATL細胞において、アネキシンV陽性細胞の割合が50%超であったことから、ツシジノスタットは初代ATL細胞においてアポトーシスによる細胞死を誘導したことが示された。なお、対照であるCD4陽性細胞におけるアネキシンV陽性細胞の割合は30%未満であった。
■初代ATL細胞におけるツシジノスタットによるアポトーシス誘導(ex vivo)

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